2024年5月FP1級学科試験 応用編講評
2024年05月31日FPキャンプ講師のとやまです。
5月26日に実施されたFP1級学科試験を受験された皆様、大変お疲れ様でした。
本記事では、5月試験 応用編の総評と各大問の講評、ならびに全体の振り返りと攻略についてお伝えします。
応用編総評
計算問題では、年金・社会保険分野で免除期間を含めた年金額の計算について出題されたため、失点してしまった方も多かったと思います。しかし、それ以外の計算は比較的易しい問題だったため、得点できた受検生も多かったのではないでしょうか。
また、穴埋め問題において、高難易度の出題が少なく、学習を重ねていた受検生であれば着実に得点を伸ばすことができました。近年の穴埋め問題は難易度が高まる傾向にありますが、今回試験はテキストに載っている論点からの出題であったため、冷静に考え解答することができる問題だったといえます。
配点予想
問題番号 | 解答 | 配点 | 小計 | |
第1問
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問51 | ① 5(年) ② 10(%) ③ 1(年) ④ 50(日) ⑤ 31(日) ⑥ 5(時間) | 各1点 | 6 |
問52 | ① 5(日) ② 2(週間) ③ 93(日) ④ 10(日) ⑤ 8(月) | 各1点 | 5 | |
問53 | ① 781,750(円) ② 1,485,494(円) | ①4点②5点 | 9 | |
第2問
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問54 | ① 11.71(%) ② 総資産回転(率) ③ 配当性向 ④ 26.97(%) | ①④2点②③1点 | 6 |
問55 | ① 12.24(%) ② 19.25(倍) | 各3点 | 6 | |
問56 | ① 120(万円) ② 150(万円) ③ 18(歳) ④ 株式数比例配分(方式) ⑤ 9月30日 ⑥ 1月1日 ⑦ ロ | ②2点、①、③~⑦1点 | 8 | |
第3問
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問57 | ① 2,300,000(円) ② 1,500,000(円) ③ 3,500,000(円) ④ 200,000(円) ⑤ 10,200,000(円) ⑥ 61,260(円) ⑦ 11,000,000(円) | ①~⑥各1点⑦2点 | 8 |
問58 | 1,484,700(円) | 5点 | 5 | |
問59 | ① 1億(円) ② 50(%) ③ 10(年) ④ 1(年) ⑤ 6(カ月) ⑥ 10万(円) ⑦ e-Tax | 各1点 | 7 | |
第4問
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問60 | ① 3(カ月) ② 2(週間) ③ 指定流通(機構) ④ 5(日) ⑤ 1億(円) ⑥ 3(年) ⑦ 50(㎡) | 各1点 | 7 |
問61 | ① 4,596,200(円)② 8,627,500(円) | 各3点 | 6 | |
問62 | ① 350(㎡) ② 1,764(㎡) | ①3点②4点 | 7 | |
第5問
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問63 | 2,600(万円) | 5点 | 5 |
問64 | ① 2,440(万円) ② 732(万円) | ①5点②3点 | 8 | |
問65 | ① 4,500(万円) ② 10(年) ③ 1(年間) ④ 家庭裁判所 ⑤ 3(年) ⑥ 75(%) ⑦ 10(万円) | 各1点 | 7 |
※FPキャンプ講師陣の予想であり、内容を保証するものではありません。なお、内訳等は公式からは非公表となっております。
各大問の講評
各問の目標得点は配点予想を基に設定しています。なお目標得点は、FPキャンプの問題集と過去問演習をやりこんだ受検生が得点できる最大点数としています。
第1問(年金・社会保険)
(問51-53)における目標得点:20点中11点
≪問51≫
②の高年齢雇用継続基本給付金の2025年の支給額については、暗記している受検生はいなかったと思います。現在の給付金の額が賃金額の15%であることは大前提の知識として、高齢者への社会保険料の負担は増加傾向である点を加味すると、10%と推定することもできないとはいえませんが、難しい問題でした。
⑤⑥は、雇用保険の被保険者の要件について出題されました。雇用保険の被保険者については過去に出題が少ないですが、⑥の雇用保険マルチジョブホルダー制度は基礎編で問われたこともあり、基礎編の演習をこなす際にただ覚えるのではなく、制度について調べる習慣を付けていた方は、正解に到達できた可能性が高いと思います。
目標得点:6点中3点
≪問52≫
①②の介護休暇は社労士試験の試験範囲であるため、得点するのは難しい問題でした。
③~⑤は介護休業給付の王道的な問題になります。年金・社会保険分野の穴埋めは難しい問題が出題されやすい傾向にあるので、王道的な問題で失点しないことが合格するためのカギとなります。
目標得点:5点中3点
≪問53≫
①では国民年金について全額免除期間されるパターンがはじめて出題されました。しっかりと勉強している受検生は、免除期間について「2分の1」を乗じれば良いと思ったはずです。しかし、問題文の設例を読むと免除された期間は1990年となっています。免除期間の基礎年金の国庫負担割合が「2分の1」になったのは2009年からです。それ以前は「3分の1」であるという点まで把握していないと老齢基礎年金額は求めることができません。年金分野を極めていなければ、初見でこの問題は解答できなかったと思います。
②の老齢厚生年金について、経過的加算額の被保険者期間を正しくカウントできるかがポイントとなります。被保険者期間を図にしながら落ち着いて計算していけば正答できた問題といえます。
目標得点:9点中5点
第2問(金融資産運用)
(問54-56)における目標得点:20点中17点
≪問54≫
①は総資産経常利益率の単純な計算問題です。過去にも出題されているため、得点しやすい問題だったでしょう。
②は総資産経常利益率の分解問題です。この問題は各指数について「総資産経常利益率=経常利益÷総資産」、「売上高経常利益率=経常利益÷売上高」という計算式まで覚えていれば、迷うことなく正解を導出できます。
③④は「サスティナブル成長率=ROE×(1-配当性向)」という計算式を覚えていれば得点できます。問54は財務分析の各指標の計算式を覚えていれば得点できる問題でした。
目標得点:6点中6点
≪問55≫
①の使用総資本事業利益率と、②のインタレスト・カバレッジ・レシオは過去試験においても最頻出の問題です。今回は為替差益について記載もなく引っかける要素もなかったため、確実に得点源にしたい問題だったといえます。
目標得点:6点中6点
≪問56≫
①~⑦は新NISAについての出題です。②は購入限度額についての計算を伴う問題でしたが、前回試験の基礎編において新NISAは出題されていたため、復習をしていた受検生は解けたのではないでしょうか。
⑤〜⑦はNISA口座の金融機関の変更が論点となる、見かけない形での出題でした。得点は伸ばしにくかったかと思います。
目標得点:8点中5点
第3問(タックスプランニング)
(問57-59)における目標得点:20点中20点
≪問57≫
法人の所得金額を計算する問題です。①②④⑥は過去問でも、ほとんどの場合に出題されているので、得点して欲しいところです。
③⑤の退職給付費用と退職給付引当金の問題は2023年5月試験応用編で出題されています。④の退職給付費用は毎期積立てる必要がありますが損金計上することが認められていません。⑤のように退職金を実際に支払ったタイミングで損金計上されます。初見で解くことは難しいですが、過去問の解法通り計算すれば解答できる問題です。
目標得点:8点中8点
≪問58≫
法人税額の計算問題です。問57を正答できていないと、こちらの解答にもズレが生まれてしまいます。法人税額の計算自体は、難しいことを問われていないので、計算式をしっかりと書きながら解くようにしましょう。今回は税額控除の金額が、法人税額の20%を超えることもないため、ミスする箇所も少なくなっています。
目標得点:5点中5点
≪問59≫
①~④の青色申告法人の欠損金の繰越控除について、⑤~⑦は法人税の確定申告についての問題です。応用編では見かけない問題ですが、基礎編では何度も出題された定番問題であるため、基礎編の内容を正確に把握している受検生であれば問題なく得点できた問題といえます。
目標得点:7点中7点
第4問(不動産)
(問60-62)における目標得点:20点中20点
≪問60≫
①~④は媒介契約についての問題です。基礎編で頻出の数字を問われたものだったので解答しやすかったかと思います。
⑤~⑦は居住用財産の買換えの特例についての出題です。FPキャンプの穴埋め演習講座内に同様の問題が掲載されているため、キャンプ受講生であれば得点することができたでしょう。
目標得点:7点中7点
≪問61≫
「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」と「3,000万円の特別控除」の組合せは不動産の譲渡の特例のなかでも最頻出の問題です。前回試験においても同様の組合せで出題されています。不動産譲渡の税金の計算過程が身についている受検生にとっては得点源となる問題でした。
目標得点:6点中6点
≪問62≫
建蔽率と容積率の問題はほぼ毎回出題されています。
①建蔽率について、設例では指定建蔽率80%の防火地域に耐火建築物という条件が与えられています。この場合の建蔽率は、角地の有無にかかわらず100%となります。このパターンの計算は初出なので、建蔽率の理解が浅かった方は、失点してしまったのではないでしょうか。
②の容積率については、特定道路による容積率制限の緩和の計算さえできていれば、難なく解答を導くことができた問題といえます。
目標得点:7点中7点
第5問(相続・事業承継)
(問63-65)における目標得点:20点中19点
≪問63≫
「小規模宅地等の特例」について、特定居住用宅地と貸付事業用宅地で限定併用する場合の計算問題です。今回は特定事業用宅地の相続がなかったため、複雑な計算をする必要もありませんでした。適用面積の調整に細心の注意を払って問題を解いていけば、正解することができたはずです。
目標得点:5点中5点
≪問64≫
この問題を解くうえでポイントとなった点は2点あります。
1点目は「『相続税の課税価格の合計額』にみなし相続財産(生命保険金)を含めるか」です。税額の計算は細かい語句の定義を把握していないと、思わぬミスにより失点してしまう可能性があります。
2点目は「代償分割の相続税の計算」です。代償分割は実質的に相続によって取得することと同義であることを試験中に想起できるかがポイントとなりました。
目標得点:8点中8点
≪問65≫
①~④は「遺留分侵害額請求権」はFPキャンプの穴埋め一問一答ドリルでカバーされている問題です。①の遺留分の計算は珍しい出題となりますが、遺留分の割合がわかっていれば解答できます。
⑤~⑦は相続税の延納について細かく問われました。基礎編の一問一答問題集でカバーされている論点ですが、ここで失点してしまった方もいるのではないでしょうか。
目標得点:7点中6点
応用編の振り返りと攻略に向けて
今回の応用編において、過去問をベースとした学習を重ねた場合に獲得可能な得点は87点でした。試験後ライブの反応を見ていても、80点台を取っている受検生が何人もいました。
近年では基礎編60点、応用編60点で合格ラインを突破する受検生が数多くいましたが、今回試験では基礎編50点、応用編70点が試験突破の目標点となりそうです。1級学科試験は試験回ごとに難易度のばらつきが大きな試験となっています。そのため、どんな試験問題が出題されたとしても対応できるように準備している必要があります。
近年の難化する1級学科試験においては、基礎編も応用編も安定して得点できるようになることが重要となります。基礎編を学ぶ時には応用編を視野に入れながら、穴埋めでも答えられるように丁寧に理解を深めていきましょう。計算問題は、ただ計算過程を覚えるのではなく、細かな語句や制度の詳細を追いながら計算していくと、初見の問題への対応力が増します。
基礎編が非常に難解であったため、応用編での失点は最小限に抑えることが合格へのカギであった試験だといえるでしょう。
【1級基礎編の講評はこちら】
この記事を監修した人
僧侶FPとやま
1級ファイナンシャル・プランニング技能士/宅地建物取引士
FPキャンプ1級コースの基礎編対策の問題集や解説、一問一答のメルマガを担当。本業である僧侶としての深い見識から、わかりやすくタメになる情報を発信